われもまた西京にありき
能勢龍明(Tatsuaki Nose)
――事実など存在しない、ただ解釈だけが存在する。
フリードリヒ・ニーチェ『権力への意志』
「西京」が山口の別称だと知ったのは数年前のことだ。周南市に本店を置く西京銀行がライブドアと提携し、インターネット専業銀行を設立する計画を打ち出して話題となった(計画はL社堀江社長の逮捕により頓挫)頃だったと思う。
当時、東京の企業に勤めていた私は、思わず笑いを噛み殺したものだ。あのド田舎の山口があたかも東京に対抗するかのように「西京」を名のるとは思い上がりも甚だしい。
山口県は人口およそ150万人、東京都の8分の1以下で、県内総生産は15分の1にも満たない。国税庁が毎年発表する都道府県庁所在地別の最高路線価番付では、東京の銀座が常に全国トップを記録するのに対し、山口市の米屋町商店街は毎年のように最下位を独占し続けている。値はおよそ100分の1だ。国立社会保障・人口問題研究所の『日本の都道府県別将来推計人口』(平成19年5月推計)によると、2005年から2010年にかけて東京ではさらに人口が増加するのに対し、山口県は人口減少率が全国5位。05年における老年(65歳以上)人口比率は、東京やその近郊圏が軒並み20%を切っているのに対し、山口は25%でこれも全国5位の高水準だ。つまり、今後も成長を続ける政治・経済の首都・東京の対極と言ってもいいようなところなのだ。
そんな山口が、果たして「西京」を名のっていいのか?
私は1980年代半ばに山口を離れたが、当時は「西京」という言葉を聞いたことがない。「おいでませ西の京、山口へ」という観光コピーがあったのは微かに記憶している。現在でも観光ガイドにはよく、室町時代の昔から「西の京」と呼ばれ…などと書いてある。それが「西京」と縮めて表されるようになったのだろうか?
ちなみに『広辞苑(第六版)』で「西京」を調べてみると「西の都。京都の異称」とある。 そうか、「西京」というのは京都のことだったのか。西京漬けが京都の名産なのは知っていたが、京都の西京区で生まれたものだと思い込んでいた。実際には京都自身が明治維新以降、東京に対して「西京」と呼ばれていたことに由来する名前らしい。
ほら、やっぱり山口のことではないじゃないか。ほかにもいくつか辞書をめくったが、山口の別名だと記している辞書は見当たらなかった。
では、ネット上ではどうだろう。こちらでは山口を指している例が数多く見られる。先述の西京銀行のほか、西京高校、西京スタジアム、西京建物、西京橋、西京観光ホテル、西京旅館、西京飯店、西京シネクラブ等々。ウィキペディアでは、京都を指すという記述より前に山口を表すと書いてある。西京味噌や西京漬けを除くと、京都の意味で「西京」と表現している例は少ない。
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